俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
第三章 敵をあざむくには味方から
第三章 敵をあざむくには味方から
「見てください、飛鳥さん! これ」
出社後すぐに香芝さんが私のところにスマートフォンを持ってやってきた。
見せられた画面には婚活パーティで撮られた写真が#ヘイムダルホテルというハッシュタグとともにずらりとならんでいる。
どれも先週末のパーティで撮影された写真のようだ。
「今回の会場、すごくフォトジェニックでしたもんね。私も写真とりたかったぁ」
「えー香芝さんにそう言われると、自信もっちゃうじゃないですかぁ」
彼女のセンスはこのサロン内では一番だ。彼女の手掛ける式のセンスは常に目を引く。雑誌の撮影の際などは必ずと言っていいほど、彼女が会場のプランニングをするのだ。
そんな彼女の太鼓判をもらえた私は、上機嫌でパソコンのキーをタッチする。
「飛鳥さん、ちょっとこっちに」
「はい」
天川課長から声をかけられて立ち上がりすぐにデスクに向かう。
椅子に座った天川課長からファイルをひとつ渡された。
「このお客様、あなたが担当してください」
「え? アシスタントじゃなくてですか?」
ファイルから顔を上げて、上司の前だというのに喜びで満面の笑みを浮かべてしまう。
そんな私を見て彼女もにっこりと微笑んだ。普段厳しい彼女の顔を見て、ますますうれしくなる。
「御杖部長が独り立ちには少し早いけど、そろそろいいだろうって。私も同じ意見です」
私はふたりの期待がうれしくて、ファイルを胸にぎゅっと抱いた。
やっとスタート地点に立った私は、出向を告げられたあの日に抱いていた「どうして私が」というマイナスな感情をすっかり忘れてしまっていた。
我ながらゲンキンなものだと思うけれど、あのときここに来ることを拒んでいたら今のこの前向きなやる気に満ちた気持ちを味わうことができなかったのだと思うと、人生って何があるかわからないなと強く思った。
「いただきます」
時刻は二十一時。ヘイムダルホテルの駅の近くを流れる川べりにある屋台のラーメン屋で、私はあつあつのラーメンを前に両手を合わせていた。
リンクスの婚活パーティから半年が過ぎ、季節は初夏を迎えていた。この時期が一番、屋台での食事が美味しいと個人的に思っている。
「熱いから気を付けて食べな」
頭にタオルを巻いた、たぬき顔の大将が私に声をかけた。