俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 昔ながらの中華そば。具はチャーシュー二枚となると、それから自家製のメンマが入っている。

 このメンマがすごくおいしいのだ。これだけでビールが何杯も飲める。

 ふうふうと息を吹きかけ、箸で持ち上げた麺を冷ます。待ちきれなくて、まだ熱いままの麺を口に運ぶ。

「熱いっ」

 わかっていたものの、思わず声を上げる。

「食い意地はってるな」

 隣に誰か座る気配がして、麺を口にくわえたまま振り向く。

「ぐっ……ごほっ、御杖部長」

 思ってもいなかった人物がそこにいて、私は麺を喉につまらせそうになる。

「ほら、水」

 御杖部長がコップに入った水を渡してくる。私は急いでそれを受け取り一気に喉に流し込んだ。

 ふぅ、あぶなかった。

「あの、なんでこんなところに?」

「接待の帰り、今から事務所に戻るところでお前を見つけた」

 これからまだ仕事をするとは、やはり私想像をはるかに超えて忙しそうだ。

「こんなところで、悪かったねぇ」

 とっさに出た言葉が大将に聞こえてしまっていたようで、しかめ顔をむけられた。

「ごめんなさい、あの今日もとっても美味しいです」

 私が慌てて応えると、白い歯を出してニコッと笑ってくれた。どうやら先ほどの無礼は聞き流してくれるようだ。

「ラーメン、いや、チャーシュー麺。大盛りで」

 御杖部長は私と大将のやりとりを見ながら注文した。

「御杖部長お食事、まだだったんですか?」

「接待では食った気がしないんだよ」

 彼がジャケットを脱ぎながら、出された水を飲む。

「大盛りだなんて、わんぱくですね」

「ほうっておけ。あー腹減った」

 普段はキリッとしていて、乱れたところなど一ミリも見せない彼のリラックスした姿を見て、初めて会ったあの日を思い出して思わず顔が緩んだ。

「何笑ってるんだ。早く食べないと冷めるぞ」

「いえ、初めて会ったときみたいだなって思ってただけです」

 私はちょうどよい熱さになったラーメンをすすりながら、何気なく口にした。

「はじめてって、あの最強にブスな顔で俺にすがりついていたときか」

「し、失礼ですよ。その記憶なくしてください」

「あの日の他の事は覚えておけと?」

 彼が何を意味しているのかわかって、顔が赤くなるのがわかる。

「知りません」

「顔が赤いぞ」

「ラーメンが熱いからです」

「まぁ、そうしておくか」

 ゆるく笑うその姿に、私の口元も自然と緩む。
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