俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 そう、甘い香りの香水が似合う女性と……。

 そこまで想像して胸が痛くなった。

 私は目の前にあるぬるくなったコップの水を一気に煽ると、勢いをつけて立ち上がった。

 変なこと考えてないで帰ろう。明日も仕事なんだから。

 自分にそう言い聞かせるけれど、胸の中のもやもやはなかなか消えてくれなかった。



 そんな忙しいながらも充実した日々を送っていたある日。

 すべてのお客様を見送り、凝り固まった肩をほぐしながらサロンの照明を切ろうとしたとき、ひとりの女性がやってきた。

「山口(やまぐち)様? いかがなさいましたか?」

 女性は私の担当するお客様で、林さんのお相手の山口美和(みわ)だ。驚いて駆け寄るが、これまで打ち合わせで見せていたような笑みはその顔になかった。

 週末の打ち合わせをキャンセルしたいと言われたばかりだったので心配だ。

「いかがなさいましたか? キャンセルされた打ち合わせのことなら気にせずに次回に――」

「次回なんてないわ」

「あの……?」

 聞き間違えたかと思い、聞き返そうとした。しかし次の瞬間山口様は私につかみかかってきた。

「この、泥棒猫。人の婚約者によくも!」

「きゃあ、待ってください。落ち着いて」

 勢いでテーブルにぶつかり、上にのせていた一輪挿しが大きな音を立てて床に落ちた。その音で事務所から数人スタッフが顔を出す。

「いかがなさいましたか?」

 天川課長の声にふりむき、私は助けを求める。襟ぐりとを掴まれているが、相手はお客様だと思うと強く引きはがせない。天川課長はこれはただごとではないと駆け寄ってきて、すぐに間に入ってくれた。

「山口様、落ち着いてください。飛鳥さん、これは一体どういうこと?」

 私は状況がわからずに、ただ首を振るしかできない。その態度が山口様の怒りの炎に油を注いだ。

「あなたが私の婚約者に手を出したんでしょ? 優(まさる)さんのスマホの中にあなたの画像が大量にあったんだから!」

 突き付けられた画面には、彼女の言う通り私の写真がある。しかし私が正面を向いているものはなく遠くから撮影されているものだ。天川課長もそれに気が付いたようで、だまったまま息を飲んだのが伝わってきた。

「泥棒! あんたなんかウエディングプランナーの資格ない! 疫病神」

「そ、ん……な」
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