俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 御杖部長が耳元で囁いて、やっとぎこちない笑みを浮かべるので精一杯だった。

今、この場を収めるにはこうするしかない。

 すると山口様が急に声をあげて笑い出した。

「ああははっは! 優ってば恥ずかしい。彼女婚約者がいるんじゃない。ざまあみろだわ。よかった、こんなダサい男と結婚しなくて済んで」

 山口様は林様の前に立つと、パァンと小気味よい音を立てて彼の頬をひっぱたくとそのままサロンを出ていった。

 驚いた私は何もできなかったが、代わりに天川課長が駆け寄る。

「林様、大丈夫ですか?」

 しかし彼は無言のまま、天川課長を無視して出口に向かう。そして最後にちらっとこちらをみた。その目は充血していて、御杖部長に肩を抱かれている私をじっと睨んでいた。

 背筋にぞくっと悪寒が走る。その恐怖に足が震えた。

 思わず御杖部長の腕にしがみつく。それを見た林さんは、走ってサロンを出て行った。

 彼の気配が消えた瞬間、私の緊張の糸が切れてその場に倒れ込みそうになる。それを支えてくれたのは御杖部長だった。

「大丈夫か? ここに座って」

 用意してくれた椅子に座って大きな呼吸を何度か繰り返すと、やっと気持ちが落ち着いてきた。

 騒ぎをききつけた香芝さんや他のスタッフも、サロンに出てきて様子をうかがっている。

「落ち着いたか」

 隣に座った御杖部長が、私の頭を優しく撫でた。その手の大きさにほっとして私は小さくうなずく。

 それを見ていたスタッフのざわめきに私は正気に戻った。

 急いで彼から距離を取ろうとしたが、逆に肩を抱き寄せられてしまう。

「あの、もう大丈夫ですから」

 かどが立たないようにやんわりと手を添えて断る。すると今度はその手をぎゅっとにぎられた。遠巻きに見ていたスタッフから「きゃぁ」と黄色い声が上がる。

「そんな強がらなくていい、今日くらいは甘えて」

 御杖部長のやわらかくいたわるような声に、違和感しかない。

「あの……何言ってるんですか? いい加減、演技やめてください」

 みんなの手前、上司の御杖部長にいつものように強くは言えない。小声で彼に伝えるとニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

 何か良くないことを考えている顔だ。嫌な予感しかしない。

「いいから、まだ話を合わせて」

「でも……」

 反論する私を彼がぎゅっと抱きしめる。近い距離に胸がドキッとしてしまい抵抗が遅れた。
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