俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 声が掠れてうまく話せない。しかし夢だと気が付いたとき、目尻から一粒涙がこぼれた。

「すごくうなされていた。大丈夫か?」

「あの、はい」

 隠すようにして慌てて流れた涙をぬぐう。しかしその手を彼が掴んで止めた。そして私を優しく抱きしめる。

「無理をしなくていい」

 優しい声に諭されて、私はしばらくその胸に顔をうずめた。しばらくすると、恐怖からくる胸の苦しさは和らいでいった。

 人肌というのはこんなにも気持ちを穏やかにするのだとこんなときなのに感心する。

「あの、ありがとうございます。もう大丈夫です」

 私の言葉に回されていた腕が緩む。顔を上げると私を見つめる彼と目が合った。

 まだ心配をしている様子でこちらを見ている。

「すみません、平気だと思ったんですが、自分が思っているよりも今日の事ショックだったみたいです」

「あたりまえだろう。身に覚えのない相手に一方的な好意を寄せられて、追いかけられたんだから怖いに決まっている」

「まるで経験があるみたいですね」

 黙ったまま苦笑いを見せる彼。おそらく私の言ったことは図星なのだろう。

 そうか、彼くらいのレベルになればそういうこともあるのだろう。

「はぁ、明日からどうなるんでしょうか」

「不安だと思うが、自分で気を付ける他ない。ただここにいる間は安全だし、職場でも配慮するようにするから」

 こんな形で周囲に迷惑をかけることになって、肩を落とす。

「すみません」

「お前が謝ることじゃない。ほら寝るぞ」

「はい、おやすみなさい」

「ん」

 短い返事をした彼が、布団をめくって中に入ってきた。私の中に疑問符が浮かぶ。

 なぜ彼もここで寝ようとしているのかと。

「あの、私もうひとりでも平気なので」

「そうか、落ち着いてよかった。おやすみ」

「はい」

 しかしこんな会話を交わしたにも関わらず、まだ彼は布団の中だ。

 私は体を彼の方に向けてもう一度同じことを、もう少しわかりやすく伝える。

「あの、私もう大丈夫ですから、御杖部長はご自身のベッドでお休みください」

 しかし続く彼の言葉に私は驚いた。

「ここが俺のベッドだ」

「へ?」

 自分でもマヌケな顔をしている自覚はある。しかしそうなっても仕方ないだろう。

「ここは俺とお前のベッド、わかった?」

「はい……いや、わかりません!」
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