俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 ふたりの間に奇妙な時間が流れた。言葉を交わさず、目だけで相手の意思を探ろうとしている。

 その沈黙を破ったのは、大輝さんだった。

「どうしてだろうな」

 そう一言言った後、彼は私から視線を逸らせた。

 ずるい。するいけど、私だってずるい質問をしたのだから、お互い様だ。彼を責めるなんてできない。

 それに私はどういう答えを期待していたのだろうか。

 考えても仕方のないことだと自分に言い聞かせた。

「少し仕事が残っているので、事務所に戻ります」

「あぁ、俺も今日は遅くなる。必ずタクシーで帰れ」

「はい」

 事業部長の部屋を出ると、事務所に向かって廊下を歩く。

 上司と部下であり一緒に住んで婚約者の振りをして、時々その延長上で戯れにキスをされて。

 私たちの関係は複雑すぎる。そして私の気持ちも。

 友達以上、婚約者未満……未満っていうか……偽物だし。その上友達でもなかった、ただの部下だ。

 くだらないと自分に言って、私は事務所へ向かう足を速めた。

 事務所の扉をあけて中に入る、すると中にいた天川課長と香芝さんが一斉に私の方を見た。

「よかった、まだ帰っていなかったのね」

「はい。あの、何かあったんですか?」

 ふたりの様子からただ事ではないと言うのはわかった。

「実は安達・福原家のご新婦の方から連絡があって、式を取りやめたいと」

「えっ! どうしてですか?」

 私の質問にふたりは困った顔を見せた。天川課長が重い口を開く。

「ご主人様の安達さん、いなくなったみたいなの」

「えっ! 行方不明ですか?」

 驚きで大声をあげてしまった。おふたりは美男美女のカップルだ。広告モデルをしている美男美女ふたりの盛装は見ごたえがあると私自身ひそかに楽しみにしていた。

 新婦の福原さんもすごく式を楽しみにしていて安達さんも……いや、最近少し様子がおかしかった。

「何か心当たりでもあるの?」

 天川課長に尋ねられて、打ち合わせ時の安達さんの様子を話した。

「実は、ここ最近安達さん元気がなかったような。たしかに式の内容については新婦の福原さんがほぼお決めになっていたんですけど、この間はそれまでと違い反応も薄くて、どこかうわの空だったような」

「そう……それだけでは理由はわからないわね。福原様は泣きじゃくっていて詳しい話はきけなかったの。無事ならばいいけれど……」
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