俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 行方不明ならば式どころではない。福原さんの思いを知っているだけに残念でならない。

「そうですね。キャンセル処理しておきます」

「お願いね」
 天川課長も香芝さんもそれ以上はこの話題に触れなかった。

 様々な理由で途中で式を行えなくなるカップルも毎年何組かいる。一緒に式を準備してきたものとして寂しくなる。

 それよりも行方不明って……大丈夫なのかな。

 キャンセルの伝票処理をしながら、私は安達さんと福原さんのことをずっと考えていた。



 もやもやを抱えたまま帰りたくなくて、ふと思い出したのが駅前の屋台だった。

大輝さんにはタクシーに乗るように言われたけれど、私はどうしても気分転換したくて屋台に立ち寄った。

「おじさん、ラーメンひとつ。煮卵トッピングで」

「はいよ~ちょっと待ってね」

 いつも通りのおじさんの様子にほっとする。今年は梅雨入りが遅く週末の天気予報にやきもきすることはあまりなかった。

 ジューンブライドで多くの挙式が行われる。いつまでもくよくよ悩んでいる暇はないのだが……やはり安達さんと福原さんのことが気になる。行方不明ってことはこのままふたりは別れてしまうのだろうか。

「おい、こんなところで何をしている」

「あ……ちょっとおなかがすいて」

「ったく、お前は。あれほどタクシーで帰れと言っただろう。俺が気が付いたからよかったものの」

 彼は車をわざわざコインパーキングに停めたようで、私の隣座りラーメンの大盛を注文した。

「落ち込んでるかと思って、電話したけど出ないし。まあ、ラーメン食べるくらいは元気みたいだから安心した」

「あの、聞いたんですね。キャンセルの話」

「まあ、よくあることだ。しかし行方不明とは、理由がおだやかじゃないな」

 私がうなずくと同じときに「おまちどうさま」とラーメンが目の前に置かれた。

「先に食べて。俺の方が食べるの早いし」

「では、お先に失礼します」

 手を合わせてから、ラーメンをすする。シンプルな鶏ガラベースの醤油スープが麺に絡んで美味しい。空腹にラーメンで私はしばし悩みを忘れて幸せにひたる。

「相変わらず、美味そうに食うな」

 隣でテーブルに肘をついた彼が覗き込んでくる。

「そうですか? 普通ですよ、普通」

 そんなやり取りをしていると、大輝さんの注文分も届いて、しばらくだまったままふたりともラーメンを堪能した。
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