俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
「ごちそうさまでした!」

 ふたりで手を合わせて、屋台を後にする。車まで少し遠回りしながらふたり並んで歩く。

 肩と肩が触れ合うくらい近く。その距離が今は上司と部下ではないことを意味している。

「残念だったな。今日キャンセルになったカップルって、お前が遅くまで色々とやっていたカップルだろ?」

「はい。若いお似合いのおふたりでした。ご予算の都合でできないことも多いのですが、どうしてもうちのホテルが良いって言ってくださっていて……」

 打ち合わせの日々を思い出して、感傷的になる。

「頑張っていたもんな。でも仕方がない」

 大輝さんの言う通りだ。しかし今はまだ気持ちを割り切れないうえに、ふたりが心配だ。

「行方不明なんて、どこにいったんでしょうかね。どんな事情が……あれ、大輝さん」

 考えながら歩いていたので、隣に彼がいないのに気が付くのが遅れた。彼は私の後ろで足を止めて、遠くを見ている。

「未央奈、あれって今、話をしている行方不明の安達さんじゃないのか?」

「えっ! 本当だ。間違いない」

 大輝さんの視線の先には、夜間工事が行われていた。煌々とライトに照らされているのは紛れもなく行方不明の安達さん。まさかこんな近くにいるなんて。

 次の瞬間私は後先考えずに、走り出していた。

「おい、未央奈っ! 待て」

 大輝さんが止める声が聞こえたが、私はそれを無視して全速力で安達さんのもとに駆けた。

 工事の音が大きい。「安達さん」と私が声をかけると初めて気が付いたようで、一瞬〝誰だ?〟という顔をされたが、すぐに思い出したのか気まずそうな顔をして仕事に戻った。

「あの、少しお話できませんか? 少しでいいんです」

 いくら話しかけても無視している。私においついた大輝さんが私の肩に手を置く。それでも私はやめなかった。

「あの、おせっかいだってわかっています! でも福原さん電話で話もできないくらい泣いていたって……だからせめて彼女に連絡だけでもしてもらえませんか? 安達さんっ!」

 福原さんの名前を出した途端、彼の手が止まった。私はここぞとばかりに畳みかける。

「お願いです、福原さん悲しんでますですから――」

 必死に声を上げる私の手を引いた大輝さんが、すっと前に出た。

「私ヘイムダルホテルのブライダル事業部長、御杖です。少しだけお話できませんか?」
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