俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 腕時計を見た彼が私に視線を向けた。私がうなずくと彼が席を立ち椅子を引いてくれる。

「一日つき合うっていうのはなかなか難しいが、食事くらいは一緒に過ごしたいからな」

「はい。ありがとうございます、それくらいはわきまえています。それに私も忙しいので、上司が鬼だから」

 ちらっと後ろにいる大輝さんを見ると、彼は笑って「それはかわいそうだな」と他人事のように言う。

「でも、最高に素敵な上司ですよ?」

 ちらっと上目遣いにそう告げると、彼が立ち上がったばかりの私の腰を引き寄せた。そしてそのままキスをする。

「もう……外なのに」

「誰も見ていないだろう。それにこれで家までなんとか我慢できそうだ」

 今度は私の目尻にキスを落とした。

 キスされながら私は彼の言葉の意図に気が付いて思わず顔を赤くした。

「じゃあ、行こうか」

 私が意識したのに気が付いた彼が、わざと耳元近くで囁く彼の意地悪が恥ずかしいけれど嫌いじゃない。

 そのまま彼に手を引かれて、私たちはふたりのマンションに戻った。

 互いにお風呂を済ませて(なんとなく鼻歌は自粛した)ベッドに並んで明かりを消した。

 彼があたりまえのように腕を私の下にもってきたので、そのまま彼の肩辺りに頭を乗せる。

 腕枕していない方の彼の手に引き寄せられて、より体温や彼の匂いを感じた。 

 なんだか幸せで無性に今の気持ちを彼に伝えたくなった。

「私、今すごく幸せです」

「ん、なんだ? いきなり」

「言いたかっただけなので、気にしないで」

 彼が笑っているのが体の震動で伝わってくる。

「俺も幸せだよ」

 驚いた。彼からまさかそんな言葉が聞けるなんて。腕の中で顔を上げると、彼も私の方をみた。

「なんだ、その顔」

「いや、意外だなって思って」

 私の言葉が不満だったのか、あれがこちらを軽く睨んだ。そしてその後私の腰に回した腕に力を込める。

「さっきも少し言ったけど、俺の方に色々と面倒なことがある。それでも一緒にいて欲しいと思っている」

 真剣な声色の彼の言葉にうなずく。

「あたりまえじゃないですか? 私こう見えてけっこう強いですから。それに……もうひとりじゃない、大輝さんと一緒なら何でも乗り越えていけそうな気がします」

「大口叩いたな、後で後悔するなよ」

「もちろん」

 私たちは互いを抱きしめ合いながら、クスクスと笑う。

 彼の温かい腕に包まれて、私は心地よい眠りについた。

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