俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
第五章 信じたい、信じられない
第五章 信じたい、信じられない
私と大輝さんが正式につき合いはじめて間もなく二ヵ月が経とうとしていた。
季節は初夏から夏へと移り変わり、それを象徴するかのように昨日東京は梅雨明けした。
「はぁ、熱いっ、アイス食べたい」
週末の結婚式用の引き出物を台車で運ぶ。
数の確認と色、それから……あ~やることいっぱい。
ゴロゴロと音を立てる台車を押していると、向こうから気の抜けた声で名前を呼ばれた。
「飛鳥ちゃん、みーっけ」
「野迫川社長、打ち合わせですか?」
「うん、もう終わったからランチに誘おうと思って」
そう言われてから時計を確認すると、まもなく昼休憩の時間だ。今日は来客の予定はないので比較的時間に余裕がある。
「じゃあ、せっかくなのでご一緒させてください」
私の言葉に野迫川社長は、「やった! 行こう」と、にこにこしながら歩き出した。
まるで少年のようなふるまいだが、彼はひとたび仕事となるとまるで別人格が宿ったかのようになる。
仕事に対する姿勢や考え方はさすがで、話をしていると自分の考えが浅はかだと思いしらされることが多々あった。
だからゆっくりと話を聞けるランチの誘いはうれしかった。
野迫川社長が連れてきてくれたのは、近くの割烹料理の店だった。夜だけの営業だと思っていたのでおどろきながら彼の後に続く。
「食べられないものある?」
「いいえ、なんでも食べます」
「なら、注文は俺に任せて」
彼が着物姿の女性に一言二言告げると、そう時間があくことなく目の前に料理が並んだ。
「本当は夜に連れてきたかったけど、アイツの監視がうるさいから」
アイツとは大輝さんのことだ。しかし食事くらい何も言わないと思うのだけど。
「相手が野迫川社長なら、大輝さんもなにも言わないと思いますけど」
もともとふたりは仕事を越えた繋がりがあるのだから、心配しないはずだ。
「いや、飛鳥ちゃんはまだアイツのことをわかってないな。結構嫉妬深いから気をつけないと」
「大輝さんがですか? そんな、まさか」
「長い付き合いの俺が言うんだから、間違いないって。まぁ、いいから食べて」
「いただきます」
私は納得しないまま、手を合わせて食事をとり始めた。