俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 見合いと聞いて私の顔が曇ったのを、野迫川社長は見逃さなかった。

「ごめん、無神経だった」

「いえ、事実なのでしかたありません」

「俺からは、親父さんにはこれ以上大輝に見合いは勧められないって話はしたんだけど、それで納得したとは思えないんだよな。 大輝が言い出したら聞かないのは父親譲りだから」

 彼に似ているお父様なら、なかなか納得いただくのは難しそうだ。そもそも私で納得してくれるのだろうか。

「ごめん、そんな顔させて。デザート食べよう。わらび餅美味しいんだよ」

「はい、楽しみ!」

 私と彼の問題だ。心配させてはいけないと思い、つとめて明るく答えた。しかし野迫川社長にはバレている。

「君は僕じゃなくて、大輝の恋人になったけれど。でも困ったときは助けるから声をかけてくれる?」

「ありがとうございます。心強いです」

 ひとりでもふたりの味方になってくれる人がいて心強い。恋愛に困難はつきものだから。

「ん~おいしい」

 黒蜜ときなこがたっぷりかかったわらび餅を口に含む。程よい弾力と甘さが口の中にひろがり、小さな幸せを運んできた。

「いいね、その顔。かわいい。あれ、ここついてる」

 野迫川社長の指が伸びてきて、私の唇に触れる。唇に知らない指の感触が伝わり思わずビクッと身体を振るわせ、咄嗟に体を後ろにそらせた。

「ふふっ、そんなに警戒しなくても。かわいいなぁ」

「か、可愛くありません」

 思わずナプキンで唇を押さえる。

「いいなぁ、大輝。俺も飛鳥ちゃんと付き合いたい」

「なに、バカなこといってるんですか?」

「え、本気だけど」

 ふと、野迫川社長の目の奥に真剣なものを感じてしまう。どう反応していいのかわからずにいると、ニコッと彼が笑った。

「わかってるから、困った顔しないで。君は大輝のもの。でもそうじゃなくなったときに、また僕のこと思い出してくれるくらいはいいでしょ?」

「そういうことが……あったらですよ」

「可能性は」

「0です」

「はっきり言うね~そういうところも実に好ましい」

 はははと笑っている野迫川社長のおかげで重い雰囲気にはならなかった。

 きっと彼もかなりもてるだろうに、どうして私なんかに目をつけたのだろうか。考えても仕方のないことだけど。

「じゃあ、行こうか」

「はい。ごちそうさまでした」

 私は野迫川社長にお礼を言い別れると、ホテルに向かって歩き始めた。
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