俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
「知っていたんだね。僕から断った後も相手方が諦められなかったらしく、直接大輝にアプローチしていたみたいなんだ」

「先日事務所にも来ていましたから」

 思い出して胸がチクリと痛む。

「大輝のやつ不用意だな、君がいる場所で相手に会うなんて」

「しかたありません」

 数日たっても思い出すと泣きそうなってしまう。そんな私を見た野迫川課長が私の手を引こうとした。しかし私は反射的にそれを拒否する。

「あ、ごめんなさい」

 驚いた様子だったが、野迫川社長はいつもと変わらない優しい笑みを私に向けた。

「いや、僕こそ急にごめん。傷ついている君に付け入っている自覚はあるから、今日のところはこれ以上何もしない」

 彼がパッと手を離し、胸元で万歳して見せた。

「大輝とのこともまだはっきりしていないから、すぐに答えは出せないと思う。でも僕の君への気持ちが冗談じゃないってことは分かってほしい」

 真剣なまなざし。こんな自分を思ってくれているなんてもったいないほど素敵な人だ。しかしすぐに彼の手を取ることができない。

 かといって完全に断ることができない私はなんてズルいんだろう。

 自分のことが、どんどん嫌いになっていく。

「明日も仕事だし、行こうか」

 野迫川社長に促されて駅に向かう。他愛のない話を振って笑わせてくれる野迫川社長。

 彼の手を素直にとれば、もう何も考えなくて済むのかもしれない。

 楽になりたい。でも心の中にいる大輝さんを追い出さないまま、前に進むなんてできそうになかった。



 それから三日後。

 小田さんから電話があった。私は彼女が何を話すのか、思わず手にした受話器を思い切り握りしめた。

 それから三十分後。私は事業部長室に大輝さんを訪ねた。

 部屋を出ていって以降、まともに話すのがはじめてなので少し緊張する。ノックをすると中から「はい」と返事があった。聞きなれたはずの彼の声なのに胸の奥に響く。

「飛鳥です。失礼します」

 扉を開けると、大輝さんがちらっとこちらを見ただけで、すぐにノートパソコンに視線を戻した。

「悪い、時間がないから作業しながら話を聞いてもいいか?」

「はい、結構です」

 私は彼が座る立派なプレジデントデスクの前に立ち口を開いた。

「先ほど、小田さんから電話がありました。挙式は予定通り行うとこことです」

「そうか」
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