俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 彼は詳細を聞こうとはしなかった。それだけで状況を把握したようだ。

「小田さん、御杖部長にすごく感謝されていました。昨日豊川さんと一緒に小田さんに会いにいってくれたんですね」

「あぁ」

 ぶっきらぼうな短い返事だったが、そんなのは気にならない。

「豊川さんのフォローをしてくださったとか」

「いや、俺はその場にいただけ」

 そうは言うが、カップル間で解決する話に同席するなんてこと、彼が本当にふたりのことを思っていないとできないはずだ。

「小田さん、すごく喜んでいました。彼の過去も受け入れて、前に進むって」

「そうか。まあ豊川さんは罪を償って反省している。その証拠に彼女に対して誠実でいたいと思ったんだろうな」

 そこまで話をすると彼がパソコンの画面から顔を上げて、私の方を見た。

「誰にでも、幸せになる権利はあるからな」

「そう、ですね」

 なんだかもう感情がぐちゃぐちゃで、伝えたい言葉が出てこない。

 大輝さんはちゃんと顧客の幸せを願い仕事をする人だとわかった。私の好きになったままの人だと改めて実感する。

 自分が感情的になっていて、本当の彼を見失うところだった。

 私はやっぱり彼が好きだ。だからこそ謝らなくてはいけない。そう思い口を開こうとした際、内線を知らせる音が鳴る。彼がスピーカーで返事をする。

「はい」

『徳川様からお電話が入っています』

「わかった、繋いで」

 大輝さんがちらっと私の方を見る。私にも相手がわかった。これ以上ここにいるわけにはいかない。

「し、失礼します」

 頭を下げて出ていく瞬間、彼が受話器を手にしているのが目に見えた。バタンと扉を閉めた今中の話が聞こえてくることはない。

 好きな相手と見合い相手の会話を聞くほど、私の心は強くない。彼への思いを実感した今ならなおさらだ。

 何もかも遅いのかもしれない。素直にならなかった自分が悪い。もう戻れないのかもしれない。きちんとしなかった自分が悪い。

 じくじくと痛む胸を押さえながら、私は自分の中でひとつの結論を出した。

 
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