※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

「あ、止めてもダメですからね。大学時代からの友人ってことは、ほのかと遼くんとも顔見知りですよね?静流さんが教えてくれなくてもほのか達に聞きますからね?」

 口を挟まれる前に紗良は矢継ぎ早に念を押した。

「貴女という人は……」

 静流は今にも暴走しそうな紗良に、呆れて物が言えなくなっていた。

「無駄ですよ。退職すると聞いて片岡の住んでいたアパートを訪ねた時には既にもぬけの殻でした。スマホに電話をかけてみても番号が使われていないとアナウンスされるばかりです」

 静流も何とか連絡を取ろうと努力したようだ。片岡がどこに行ったのか誰にも検討がつかない。

「他に手がかりは?」

 どうしても諦めきれない紗良は藁にも縋る想いで静流をじいっと見つめた。現状、片岡の情報に関しては静流の記憶だけが頼りだった。

「……実家は北海道で、酪農をしていると聞いたことがあります」
「場所は?」
「確か……十勝地方だったかと……」
 
 十勝という地名だけでいち個人を探し出すのは雲を掴むような話だった。
 
「探してみましょう」

 それでも何かせずにはいられない。やるだけやってみよう。ルームシェアを解消するか、結論はそれからでも遅くはない。

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