※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

 静流の話を聞いた翌日から紗良は暇があると片岡の実家の牧場を探した。
 なるべく定時で帰宅し簡単に夕食を済ませると、早々に自室に籠ってノートパソコンとスマホを相手ににらめっこを始める。

「はい。ありがとうございました。それでは失礼致します……」

 紗良は電話を切るとがっくりと肩を落とした。

「ここも違ったかあ……」

 当てが外れひとり落胆すると、ノートに書かれた牧場の名前と電話番号に横線を引く。
 電話の次はメールだ。タブレットで昨日送ったメールの返信をチェックする。こちらも残念ながら外れ。
 まただめかと、はあっとため息をつき気落ちしてベッドに寝転がる。
 静流の友人、片岡の行方を探し始めて一週間、なんだか挫けてしまいそう。

(牧場ってたくさんあるんだなあ……)

 十勝地方だけで一体いくつの牧場があり何人の酪農家がいるのか、紗良は全くの無知だった。
 探すと言ってもツテがあるはずもなく、ウェブサイトの検索に引っかかった順に片っ端から電話を掛けメールを送るのが関の山。こんな稚拙なやり方で本当に片岡が見つかるのか、甚だ疑問に思えてくる。

「紗良さん、お風呂どうぞ」
「はーい……」
 
 沈みに沈んでいると、ドア越しに静流に声を掛けられる。静流とはこの数日、連絡事項ぐらいしか会話をしていない。
 片岡の行方を探すために自室に篭る紗良を静流は助けるでもなく、止めるでもなく静かに見守っている。
 静流は引っ越しの準備を一旦保留にしてくれた。彼自身、ルームシェアの解消が一種の逃げであるということは十分理解しているのだろう。
 あとはもう、紗良自身の気力との勝負だ。

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