※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
『せっかくここまで来たんだ。少しは観光して行けよ。近くに俺の友人が経営しているラベンダー畑があるんだ。本格的な観光シーズン前で空いてるだろうから寄ってけよ』
十勝スマイル牧場を後にした二人は片岡が帰る間際にすすめてくれたラベンダー畑へと車を走らせた。片岡は近くと言っていたが、全然近くない。ラベンダー畑は南に三十キロも車を走らせる必要があった。
「あの……ひとつ聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
「片岡さんの婚約者の方とはその後どうなったんですか?」
「恋人になって欲しい言われましたが、丁重にお断りしました。随分なじられましたけどね」
静流には及ばないものの、片岡も十分目鼻立ちの整ったイケメンと言われる部類の面差しだった。そんな片岡の婚約者なら相当な美人だったに違いない。
木藤の件といい、静流の女性に対する価値観は今ひとつよくわからない。
(静流さんってどんな女性を好きになるんだろう……)
窓の外を見ながらとりとめのないことを考えているうちに、目的地であるラベンダー畑に到着する。
チケットを買い柵の内側に入るとすぐに濃厚なラベンダーの匂いがした。
「うわあ……」
他人にすすめるだけあって、それは素晴らしい光景だった。
目の前には見渡す限りの紫色の絨毯が広がっていた。青い空とのコントラストが美しい。ラベンダー畑は夢のように綺麗だった。