※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
店内に足を踏み入れると、空いているテーブル席にすぐに案内された。
注文した食べ物が届くのを待つ間、紗良は興味津々で内装を見物した。
床はコンクリートだが、テーブルとイスは無垢材でできており、温かな木のぬくもりが感じられた。カフェの中央にあるどんと構えた武骨な柱も趣があっていい。
「お待たせいたしました、和紅茶とパウンドケーキのセットです」
「わあ、良い匂い……」
店員がそう言って運んできたのは紗良が頼んだ『べにひかり』という品種の和紅茶だ。香ばし目の香りだがすうっと穏やかな匂いが鼻を抜けていく。
テーブルの上に置かれたカップに早速手に取る。
「美味しい……」
セットで頼んだパウンドケーキもみかんのジャムが甘酸っぱくて、和紅茶との相性もバッチリだ。
紅茶と言うと洋風のデザートをセットにするが、緑茶用の茶葉を使っているせいかみかんジャムがすごく合う。なんて素敵な組み合わせだろう。
「喜んでもらえて良かった」
嬉しそうに微笑む静流と目が合い、紗良の心臓がドキリと跳ね上がった。
静流がこのカフェに連れてきたのは当然のことながら紗良の趣味を熟知してのことだ。
まんまと静流の思惑通りに事が進んでると気が付いた途端に、紅茶の味がわからなくなる。
(私ってば本当に単純……)
美味しい紅茶さえあれば機嫌が良くなるとこうもあっさりと見抜かれて、もはや恥ずかしいを通り越して情けなくなってくる。