※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

「すみません、クレジットカードで」

 静流は紗良がお札を出すよりも先に自分のクレジットカードを店員に渡してしまった。
 どうしてと、背後を振り返ると静流ははにかみながら言った。

「ほら?この間、紅茶の缶を床に落としてしまったでしょう?そのお詫びです」
 
 お詫びもなにも床に落としたのはほとんど紗良のせいだ。
 あれよあれよという間にお会計が済まされ、商品の入った紙袋が手元にやってくる。

「す、すみません……。まさか静流さんに買っていただけると思わなくて、その……沢山買っちゃいました……」
「構いませんよ。その代わり私にも淹れてくださいね」

 自分が誘ったのだからとカフェの飲食代も払ってもらったのに……会計の済ませ方がスマートすぎやしないか?
 しかも紗良が負い目を感じないようにさり気ない言い回しをしてくる。
 紗良は商品の入った紙袋をぎゅうっと胸に抱えた。

(静流さんが優しいのは元々そういう性格だから?それとも私のことが本当に好き……だから……?)
 
 じいっと見つめても静流の背中は何も答えてくれなかった。

 カフェから出て再び車に乗り込むと、静流はフロントガラスの先にある山の頂上を指差した。

「あの山の上に展望台があるらしいので帰る前に少し寄って行きませんか?」

< 133 / 210 >

この作品をシェア

pagetop