※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

「うわ……。風が強い……!!」
「晴れていれば富士山の天辺まで見えるようですね」

 静流はカフェでもらってきたと思しき観光ガイドを片手に解説してくれた。
 山頂には気持ちの良い風が吹いていた。良く晴れて汗ばむくらいの陽気だったのに、風のせいですぐに汗が乾いていく。
 山頂から谷間を見下ろすと雲の影がくっきりと形作られていた。遠くに見える紺碧色のダム湖が太陽の光を反射しキラキラと輝いていた。
 紗良は落下防止の手すりを握りしめ、この風景を噛み締めていた。
 天気も良いし景色も綺麗な上に和紅茶も美味しかった。文句なしの休日だ。
 明日からまた一週間頑張れそう。

「紗良さん」

 風に靡く髪を押さえながら紗良は隣に佇む静流を仰ぎ見た。

「私の気持ちが迷惑なら正直に言ってくださいね。直ぐに出て行きますから」

 紗良はドキリとした。
 このまま何事もなくルームシェアを続けようとしたことを見抜かれていたような気がした。
 結論を出さないまま逃げることは許されない。先手を打たれてしまい紗良は思わず俯いた。

「あ、急にすみません。困らせたい訳ではないんです。でもこういう言い方はずるいですね。焦っている……という自覚はあるんです」

 静流は紗良を追い詰めたことを正直に謝罪し、反省した。

「静流さんのお気持ちは嬉しいんですが……その……よくわからなくて……。何で私のことを?」

 静流のように何でも出来て、格好良くって人となりも素晴らしい人が自分を好きになるなんて未だに信じられない。
< 134 / 210 >

この作品をシェア

pagetop