※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
弥生はあの日と同じゆずハチミツティーを淹れてくれた。カップを受け取りゆっくり口をつけると、紗良は静流から好きだと告白されたことを正直に話した。
「さすが静流さん!!紗良ちゃんを見染めるなんて、目の付け所が違うわね」
弥生は静流の慧眼を褒め称え、うんうんと深く頷いた。
「私……もう気遅れしちゃって……」
「いいじゃない。イイ男に惚れられた自分もイイ女だって開き直れば!!静流さんは誠実な人だと思うわ。あとは紗良ちゃんの気持ち次第よ。そろそろ次の一歩を踏み出しても良いんじゃないのかな?」
次の一歩を踏み出すと言われても、そう簡単に出来るものではない。
紗良はゆずハチミツティーを飲み干すと、お会計を済ませスピカを後にした。
真夏に現れる陽炎のように気持ちがゆらゆらと揺れ動いていく。
今は紗良が好きでも、いつか好きではなくなってしまう日がやってくるかもしれない。
今は静流を信じられても、いつかは信じられなくなる日がやってくるかもしれない。
『紗良は俺のことを信じてくれないんだな』
かつて投げつけられた言葉を思い出すと、心臓が凍りついていくようだ。
紗良はまだあの日からてんで成長していない。
時間が忘れ薬として作用するなら、とっくに次の恋に踏み出せているはずだ。
(私はまだ怖いんだ……)
誰かを好きになって、裏切られたり、本心を疑ったりすることがたまらなく怖いのだ。