※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

 紗良はエプロンをつけると、カウンターの上に並べてある伝票に目をやった。
 七つある伝票のほとんどが紅茶フロートの注文だった。紗良が最後に出勤した先週の土曜の時点では一日に三回ほど注文されれば良い方だった。
 なんでいきなりこんなに人気になったのか。理由もよくわからない。

「他の注文は私が捌くから紅茶フロートをお願いできる?」
「わかりました」

 考案者の紗良の方が弥生よりも紅茶フロートを作るのに手慣れている。家でも練習したおかげで手順も完璧に頭の中に入っていた。
 紅茶フロートを作りながら、店内を見渡せばスピカの客層とは異なる若い女性達ばかりだった。
 注文された紅茶フロートをテーブルに届けていくと、直ぐにスマホによる写真撮影が始まっていく。

「弥生さん、これが噂のバズりってやつなんですかね……?」
「そういえば、先週来たお客さんにSNSに写真をアップしてもいいか聞かれたわ。気軽にオッケーだしちゃったけど、まさか……ね?」

 ……そのまさかだった。
 試しに紗良も使っているSNSに『紅茶フロート』のハッシュタグで検索をかけてみると、スピカの店内で撮ったと思しき写真が出てきた。
 弥生が掲載の許可を出したのはフォロワーが何十万人もいる有名なスイーツ紹介系のインフルエンサーだったのだ。
 彼女が紹介した紅茶フロートの投稿には『美味しそう』『食べに行きます』などのコメントがずらりと並んでいた。

 スピカは先代の弥生の父の方針で、地元に根差したお店作りを掲げている。地方紙か地元のフリーペーパーぐらいしか取材も受けない。
 にもかかわらず、この騒ぎ。恐るべしSNSの力。
< 147 / 210 >

この作品をシェア

pagetop