※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

(そろそろ注意しなきゃ……)

 紅茶フロートを食べに来てもらえるのは嬉しいけれど、他のお客様の迷惑になるなら退店を促さなければならない。
 しかし、紗良が行動に移す前に静流がカウンターから立ち上がり、彼女達のいるテーブル席に近づいていった。

「お嬢さん方」

 静流は女心をくすぐる極上の声色で二人組に声を掛けると、しいっと人差し指を唇の前に立てた。
 あれほど騒いでいた彼女達は静流の整った顔立ちにハッと目を奪われ、途端に声が小さくなった。
 静流は席に戻ると再び読書の続きを再開したのだった。

(静流さん、すごい……)

 流れるような仕草ひとつで彼女達を黙らせた。こんな芸当が出来るのは静流だけだ。

「静流さん。これ、店長からのサービスです。良かったら食べてください」

 二人組が帰った後、事の仔細を紗良から聞いた弥生の指示によりシフォンケーキの切れ端がサービスされた。

「あの……。先ほどはありがとうございました。すごく助かりました」
「そんな……お礼なんて必要ないですよ。私から見ても目に余る行いだったので少し注意しただけです」

 紗良は静流に頭を下げながら、ふがいない自分を責めた。本来なら二人に注意をするのは紗良の役目だった。
 紅茶フロートを開発した担当者として、紗良はスピカに起きた混乱に責任を感じていた。
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