※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「高遠センパイ……紗良ちゃんみたいな人が好みだったんすね。あんだけ美女に言い寄られてもうんともすんとも言わなかったのに」
「羽宮くん、余計なことを言わないでください」
静流は鋭い眼光で遼を蜂の巣にせんばかりに睨みつけた。
「大学時代、貴方のお世話をしたのは誰だと思っているんですか?恩をまとめて返してもらいますよ」
紗良はこっそりほのかに尋ねた。
「お世話ってなんのこと……?」
「遼と高遠さんは学生時代に同じマンションに住んでたの。しかも隣同士」
一人暮らしを始めた当初から遼の生活能力はそれは酷いもので、料理をすれば何かが爆発し、洗濯をすれば水漏れが起きる。
隣家からひっきりなしに聞こえてくる異音に危機感を覚えた静流が何かと面倒を見てやったらしい。
次第に遼は静流の家に入り浸るようになり、当時付き合いたてだったほのかもついでにお邪魔するようになったとのことらしい。
(なるほど……)
ご主人様と犬。
遼は静流の美味しいご飯で餌付けされ、飴と鞭で躾られていたようなものだったのかと、目の前の光景に合点がいく。
「いいじゃないですか。紗良ちゃんと知り合えたのは俺のおかげっしょ?」
「正確に言うなら羽宮くんではなく、ほのかさんのおかげです」
「細かいことは言いっこなしですよ、センパイ!!」
遼はなかなかな愉快な性格をしていると思う。人懐こく素直だが無礼と言われるラインは弁えていて好感がもてる。
月城といい、片岡といい、静流にはこの手のタイプに人に好かれるフェロモンでも出ているのだろうか。