※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

「私と周平は元々同期で、同期達と一緒に遊んでいるうちに自然と仲良くなって付き合い出したんです。付き合いだして二年ほどが経って互いに結婚も意識するようになった頃、一課に桑名(くわな)さんという女性が配属されてきたんです」

 桑名留衣(くわなるい)は桑名工業という国内有数の半導体メーカーの創業者一族の御令嬢だった。よく手入れされた黒髪と、クリクリとした二重が可愛い女性だった。

 良くも悪くも世間知らずで仕事は暇つぶしだと豪語し、手を抜く始末。当時は一課に所属していた紗良もよく手を焼かされた。

「彼女は周平が気に入ったのか、あからさまにアプローチを仕掛けてくるようになりました。彼女である私の存在なんか目にもくれませんでした。そんな時、周平の福岡への転勤が決まったんです」

 周平の転勤により、紗良も決断を強いられた。
 
「周平からは仕事を辞めて福岡についてきて欲しいと言われました。でも、私は簡単にはうんと言えなくて……。喧嘩することも増え、全てが上手く行かなくなり始めて……事件が起きました」

 それまで紗良はたとえ相手が誰であれ周平がなびくはずがないと信じていた。……信じようとしていた。

「桑名さんが妊娠したんです。相手は……周平だと彼女は話していました」

 ぎゅうっと力一杯拳を握りしめる。そうしないと当時のことを思い出して泣いてしまいそうだった。

「私は……周平を信じていいのかわからなくなりました。何が真実で何が嘘なのか。とにかく酷く打ちのめされて……結局、別れを選んだんです」

 周平はすべてを置き去りにする形で福岡へと旅立った。桑名は周平の転勤について行くために退職した。
 二人はその後結婚したと、風の便りに聞いた。
 残された紗良は我孫子に拾われ一課から二課に異動した。
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