※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

 彼氏がいると言えば、興味も失せるだろうという紗良の予想に反して、周平はしつこく食い下がった。
 二、三日に一度は終業後にエントランスの前で紗良を待ち伏せするようになった。
 その度に紗良は周平を避けるようにして逃げ帰った。
 待ち伏せが三週間目を迎えると、周平のことは課内でも無視できなくなった。

「今日もいますね」

 吹き抜けになっている二階からエントランスの様子を見に行っていた吉住が報告に戻ってきた。

「しつこい男っすね」
「彼氏がいるから話しかけないでって言ったんですけど……」
「三船さん、彼氏いたんですか?」
「あ、えっと……!!そう言えば話しかけてこなくなるかなって!!」

 木藤は腕を組み何事かを思案し始めた。

「しつこい理由は十中八九それね。独り身になったことだしヨリを戻そうと思っていたのに、彼氏がいるって聞いて焦っているのよ」
「まさか……」

 ヨリを戻したがっているなんてあるのだろうか?
 後腐れのない別れ方をしたならともかく、紗良と周平の最後はそれは酷いものだった。
 福岡転勤の話が持ち上がってから雲行きは怪しかったが、桑名の妊娠をきっかけに完全に瓦解した。紗良は電話もメッセージもブロックして、周平との連絡を絶った。仕事中も会話は避け、連絡事項のみを伝達するようになった。
 自分でもなかなかの避けっぷりだったと思う。
 それくらい傷ついたという証だった。
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