※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「どうでした?」
静流は家に帰ってくるなり、夕食を作っていた紗良に終業後の様子を尋ねた。
「吉住くんが一緒だったせいか今日は話しかけられませんでした。効果があったみたいです」
「そうですか……」
無事に帰宅できたことを告げると、静流は安心したのかゆっくりと肩で息をした。かと思えば、次第に表情が翳っていく。
「静流さん……?」
「本当は私がその役をやりたかった……」
「何言ってるんです!!静流さんは既婚者で愛妻家なんですから、部下の彼氏役なんてやったらダメですよ」
「見ているだけというのは本当に歯痒いですね」
悔しさを滲ませながら自虐的に笑う静流に心をぎゅうっと鷲掴みされる。紗良は彼に力一杯抱きついた。
「私……静流さんがいるから周平と再会しても平気でいられるんです」
周平と対峙しながらこんなに穏やかな気持ちでいられるのは間違いなく静流のおかげだった。何かあっても静流が傍にいてくれるから頑張れる。
静流は紗良の頭を優しく撫でながら言った。
「紗良さん、私の気晴らしに付き合ってもらえませんか?出来れば泊まりで」
「泊まり……ですか?」
泊まりがけの旅行に誘われたのは初めてのことだったので驚いてしまう。
「ダメですか?」
「……行きたいです」
何を迷うことがあるのだろう。
紗良はもちろん満面の笑みで答えたのだった。