※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

「紗良さん……ダメですよ」

 もっと触れ合いたいとキスの先を求め静流の浴衣の合わせを開こうとすると即座に止められた。

「今日は私の気晴らしに付き合ってくれるはずでしょう?」
「気晴らしって……」
「紗良さんを心ゆくまで愛でたい」

 紗良は眠れぬ夜を覚悟して震えた。
 静流の言葉通りまるで猫にでもなったように愛玩される。目が合えばキスをされ、全身を撫で尽くされた。くすぐったさと焦ったさで身を捩らせれば、可愛いと甘く囁かれる。その度に紗良は静流の膝の上でビクビクと悶えた。
 愛で溶かされ何度も限界を訴えた紗良に静流は容赦なかった。紗良を身も心もクタクタにされてなお愛でる手が緩められることはない。
 静流はぐったりしている紗良をローベッドに横たえた。

「まだ……こんなものでは足りません」
「そ……んなあ……」

 期待と興奮でまつ毛が濡れる。静流の浴衣は一切乱れていないのに、逆に紗良は浴衣も羽織もだらしなくはだけている。

「優しくするって……」
「だから優しくしているでしょう?」
「ひっ……あ……」

 静流は楽しそうにクスクスと笑い、背中をツツーと指でなぞった。紗良が焦らされて狂いそうになっているのを楽しんですらいる。
 手つきや眼差しこそ丁寧で優しいが、紗良にとっては甘く苦しい生殺しのような時間がいつまでも続く。

「紗良さん、私の腕の中でもっと乱れて……」

 耳の裏にキスを落としながら静流はうっとりと呟いた。
 うつ伏せのまま顎を持ち上げられ唇を重ねあった時には既に紗良の意識は朦朧としていた。

 結局、その夜はどれだけねだってもキスとフェザータッチ以上のことはしてもらえなかった。
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