※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「帰る前に観光して行きませんか?ここから車で三十分ほどのところに有名な滝があるそうです」
旅館をチェックアウトした後は、静流の提案で滝見物に向かった。近隣の駐車場に車を止め、二十分ほど歩くと滝壺に到着する。
「うわあ、凄いですね」
紅葉シーズンとあって大瀑布の前はたくさんの観光客で溢れかえっていた。
大量の水が頭上から降り注ぎ、落下していく様子は圧巻の迫力だった。水飛沫が気まぐれに顔に当たって冷たい。
「あまり近づきすぎると落ちますよ」
「そんなにドジじゃないです!!」
滝壺の前にはちゃんと柵だってある。紗良がいくら身を乗り出しても落下することはない……と思う。
「知ってるんですよ。紗良さん時々お風呂の栓をするのを忘れてお湯を入れてしまっているでしょう?」
ドジの動かぬ証拠を突きつけられ、うぐっと黙る。しかし、負けてたまるかとすぐに言い返した。
「そういう静流さんだって、私がまだ帰ってきていないのにインナーロックかけちゃうじゃないですか。何度玄関で締め出しを食らったことか!!」
「それは最初のうちだけでしょう?紗良さんのうっかりはまだまだありますからね。例えば洗濯機の中に靴下を忘れがちとか。特売だからって買い置きがまだあるのにトイレットペーパーを買ってきたり……。他にもアイスクリームを冷凍庫ではなく冷蔵庫に……」
「もうっ!!それ以上言わないでください!!」
思ったよりも恥ずかしいドジの数々を楽しそうに列挙され紗良は耳を塞ぎたくなった。
(もう絶対、静流さんには口喧嘩を挑まない!!)
静流は実に紗良のことをよく見ていた。