※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

「あ、そうだ。帰る前にお土産物屋さんに寄っていってもいいですか?」

 観光を終え駐車場に戻る途中、紗良は土産物屋の前で足を止めた。
 早上がりさせてもらったお礼も兼ねて弥生には何かお土産を買っていきたい。

「構いませんよ。私も隣のお店を覗いてきますね」

 静流とお土産物屋の軒先で二手に別れた紗良は平積みされたお菓子達を眺めながら大いに悩んだ。

(うーん……どうしよう。このバームクーヘンがいいかな?)

 散々悩んだ末に選んだのは地元の養鶏場で作られたブランド卵をふんだんに使ったバームクーヘンだ。弥生も気に入ること間違いなしだろう。
 他にもいくつか茶菓子になりそうな物を見繕いレジに向かおうとすると、通路をすれ違う際に男性に肩がぶつかってしまった。

「あ、すみませ……」
「三船さん?」

 謝罪が終わらないうちに名前を呼ばれ、相手の顔を改めて見上げる。

「つ、月城さん!?」

 見慣れた垂れ目と安穏とした顔つきに紗良は驚きで口をあんぐりと開けた。紗良がぶつかったのはなんと月城だった。
 ……まずい。数メートル先には静流が紗良と同じようにお土産物を物色している。

「うっわ!!まさかこんなところで職場の人に会うとはな……」
「月城さんはどうしてこちらに?」
「俺の実家、この辺りで旅館を経営してるんだよ。帰省した帰りに職場に土産でも買ってこうかと思って寄り道したんだ」

 月城は澱みなく説明した。
 月城の実家が温泉旅館を経営しているのは聞いたことがあった。しかし、まさかこんなところで鉢合わせするなんて!

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