※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「三船さんはひとり?」
「はい!!気ままな一人旅です!!」
静流が一緒だということは口が裂けても言えない。紗良は話を合わせ一人旅を装うことにした。
「結構、辺鄙な場所なのに一人で来るなんてよっぽど旅行が好きなんだね。知らなかったよ。
「ははは……」
知らないのも無理はない。紗良は本来、積極的に遠出するタイプではない。どちらかと言えばインドア派で紅茶を飲んで家でのんびりしていたい派だ。
「ここまでどうやって来たの?車?」
「バスです!!」
「ん?」
間髪入れず即答すると、月城は何かを考え込むように黙ってしまった。
(あれ?何か変なことを言っちゃった?)
「これから東京に帰るんだよね?」
「はい」
「昼のバスに乗り遅れたら次の日の朝まで最寄りの駅に行くバスはないよ?ここ田舎だから」
「え!?そうなんですか!?」
駐車場の手前にバスの停留所があるのはわかっていたが、時刻表まではチェックしていなかった。凡ミスにもほどがある。
(……マズイ)
このままでは嘘で取り繕っているのがバレてしまう。
「というか、ローカル線を乗り継ぐにしても今からだと東京まで帰れないんじゃないかな?」
更なる旅程の甘さを指摘されて、冷や汗がダラダラと流れていく。電車の時刻なんて端から知らない。行きはともかく帰りは静流とレンタカーで帰宅する予定だったからだ。
どう説明すればこの場を切り抜けられるのか。今からでも車で来ていることにするか?
(た、助けて!!静流さん!!)
紗良は心の中で声にならない叫びをあげた。