※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「仕方ないなあ……。旅の段取りが甘々な三船さんをこのおじさんが助けてあげよう」
「へ?」
「車できてるから家の近くまで乗せてってあげるよ」
すっかり困り顔になった紗良を見て、月城は盛大な思い違いをしたらしい。
助け舟を出したつもりだろうが、紗良にとっては地獄への片道切符のようだった。
「え!?あ、そんな!?ご迷惑をおかけするわけには……!!」
「いいからいいから。困った時はお互い様ってことで」
月城が持ち前のサービス精神と親切心から提案してくれているのは紗良にもわかっていた。
確かに困ってはいるのだけれど、それは月城と遭遇してしまったことに対してであって、家に帰る手段がないことではない。
しかし、紗良は月城の申し出を断る術を待ち合わせていなかった。
「とりあえずそのお土産買っちゃったら?待ってるからさ」
「はい……」
お会計を済ませると、駐車場に停めてある月城の車まで案内される。その途中、静流が隣のお土産物屋から出てくるのが偶然見えた。
(静流さん……!!)
紗良は心の中で何度も何度も静流の名前を呼んだ。突然紗良が姿を消したら、静流は心配するに違いない。
「どうしたの?早く乗りなよ」
月城に促され紗良を泣く泣く車に乗り込んだ。月城の車は駐車場を出発し、静流の姿が遠く小さくなっていく。
(私、何やってるんだろう……)
紗良は今すぐにでも静流の元へ帰りたかった。