※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「あのう……。木藤さんのことなんですが……。どうしてあんなことを?」
家にいる時は仕事の話はしない紗良だったが、今回ばかりは意を決して尋ねた。木藤と同じチームで働く紗良にとって今回のことは他人事ではない。
「彼女は仕事のし過ぎです。人事部からも何度も残業超過で指導を受けている。これ以上看過できません」
「それでも無理やり仕事を取り上げる前に何か出来ることがあったんじゃ……」
「何かあってからでは遅いんです。オフレコですが、今回の件は我孫子さんからの要望でもあるんです。あの方は本当によく人を見ていらっしゃる」
静流は淡々とそう言うと、お碗を持ち味噌汁を啜った。
我孫子元課長は静流に引き継ぎを終えると課長職を辞した。課長のデスクを静流に譲り、今は一社員として二課に所属している。我孫子まで関わっているとなると、容易く方針を変えられるものではない。
「とにかく、木藤さんのことは私に任せてください。悪いようにはしません」
「……わかりました。私に出来ることがあればなんでも言ってください」
「それでは早速、お願いしたいことがあります」
「なんでしょう?」
「私とデートしてください」
「……へ?」
紗良は極上の笑みを浮かべる静流をただただポカーンと眺めるばかりだった。