大江戸ガーディアンズ
おすては三つ指揃えて見世仕込みのお辞儀をすると、ゆったりと面を上げた。
そのとき、目に飛び込んできたのは与太の姿だった。
思わず「なぜ此処に……」とばかりに、団栗のごとき大きな眼が真ん丸になる。
されど、次の刹那にはすっと真顔になり、盆を手にしてふわりと立ち上がる。
そのまま、客人である与太の許へと進み、しずしずと茶の支度を始めた。
故郷の方言はなかなか抜けぬおすてであったが、流石に半年もいれば「吉原の大籬」がゆえの座敷での所作くらいは身に付きつつあった。
与太は、傍らで茶を給仕するおすてから莨盆の向こうにいるおつたの方へと目を戻した。
「お内儀、おいらは鳶をやってる与太ってんだ。
そいでもって、火事んときゃあ『火消し』もやってんのさ」
「へぇ……おまえさん、平生は『鳶の火消し』だってんのかい……道理でねぇ……」
おつたは「ようやっと納得がいった」と云うふうに呟いた。
鳶も火消しも、日々身体を張る仕事だ。
しかも火消しとあらば、日々我が身の命を賭して此の大江戸を護っているはずだ。
「……で、何処の組の者なのさ」
「伝馬町の『は組』だ」
おつたの細い目がばっと開いた。
「『伝馬町のは組』って……っ云うことは、おまえさんもしや……辰吉親分の……」
その口から岡っ引きだった祖父の名が出た。
「おう、おいらは辰吉の孫だってんでぃ」
与太はこのときとばかりに胸を張った。