大江戸ガーディアンズ
見世に教えられたとおり丁寧に茶を淹れたおすては、茶托の上に湯呑み茶碗を乗せると与太の前にすーっと置いた。
されども、与太の方はおすての顔から目を逸らし、べこっと頭だけを下げた。
お内儀に「顔馴染み」だと知られれば、おすてにとって都合が悪かろうと思ったがゆえだ。
それから、おつたの方へと進んだおすては、莨盆の上にお内儀がいつも使う湯呑みをそっと置いた。
「……そうかい、おまえさんが辰吉の親分さんの孫だったとはねぇ。
親分さんが亡くなってしばらく経つが、そりゃあさ、天寿を全うしなすったって頭じゃあ理解っちゃいるけどさ。
……惜しい人だったねぇ」
おつたはしみじみと云うと、おすてが置いた湯呑みを手にし、中の茶を一口含む。
与太も茶を飲んだ。
馥郁とした茶の香りがまず鼻をくすぐり、そのあと渋みのまったくない深い味わいが口の中いっぱいに広がった。
「親分さんにゃ、うちの見世もずいぶんと目をかけてもらったからね。
その御仁の孫の頼みだってんなら、頰被りはできゃあしないさ」
祖父の辰吉は、南北の奉行所がまだ犬猿の仲で一切行き来のなかったあの時分に、双方ともに「伝手」のあった稀有な人だった。
吉原では同心や岡っ引きたちがいる面番所に、本職の合間を縫ってよく詰めていたと聞く。
おつたはさらに一口含んで喉を潤すと、与太にきっぱりと告げた。
「良うござんす。
おまえさんの話、お引き受けしやしょう」
与太の顔がパッと輝き、熱を帯びた眼がぎらりと眩い光を放った。