サイコな本部長の偏愛事情(加筆修正中)

彼女のことを考え、別れる決心をし、『婚約者』を解消したのに。
空港内で彼女を見かけるとついつい目で追ってしまう。
だって、彼女の左手にまだ指輪が嵌められているから。

忘れらないというより、もしかしたら願掛けのようなものなのかもしれない。
指輪を外さずにいたら、俺の眼がまだ視力を失わずに済むんじゃないかと。

昔流行ったミサンガみたいに。
勝手な思い込みだけど、それが心の支えになることもある。
もしかしたら、今の彼女がそうなんじゃないかと、一方的に解釈してみたりして。

***

『渡したい物がある』

突然、彼女からメールが届いた。

別れてから一度も連絡をして来なかった彼女からのメール。
酒井に聞いても『分からない』と。

指定された時間に指定された場所へと向かった。

二十三時十五分。
第三ターミナル五階の展望デッキ。

普段は減便の関係で施錠されている時間だが、彼女からの連絡を貰い、事前に時間延長しておいた。
時間通りに到着すると、彼女は寒空の中、ベンチに腰かけて俺を待っていた。

「お疲れ」
「お疲れ様です」

ロングコートにマフラー姿で、すっかり冬仕様の服装で彼女は微笑んだ。

「元気だったか?」
「それなりに」
「そうか」
「お仕事相変わらず、お忙しいんですか?」
「まぁな」
「あまり無理なさらず、たまにはゆっくり休んで下さいね」
「……ん」

他愛ない会話。
だけど、少しだけぎこちない。

冬の冷たい風のせいで口元が凍るからなのか。
俺らの距離が少し遠ざかってしまったからなのか。

「渡したい物って?」
「あ、………これです」

彼女は一冊のノートを差し出した。

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