サイコな本部長の偏愛事情(加筆修正中)

「ここは薄暗いので、ご自宅に帰ったら読んで下さい」
「………ん、分かった」

ノートを受け取ると、久しぶりに屈託ない彼女の笑顔を見た。
視力を失う前にもう一度見れるとは思ってもみなくて。
思いがけないプレゼントに心の奥が温かくなる。

「郁さんに会うのはこれが最後だと思います」
「………ん?」
「ここでの仕事、今日が最後なんです」
「………あぁ」
「なので、最後にご挨拶したくて」
「…ん」
「最後の最後だから、言いたいこと、……言わせて貰ってもいいですか?」
「ん」

彼女は目に涙を溜めながら、俺を真っすぐ見据えた。

「例え眼が見えなくなったとしても傍にいたかったです。大手航空会社の御曹司だから惹かれたのではなくて、常に自分に厳しく努力し続けるその姿に惹かれたんです。元彼の傍にいたくなくて逃げ出した自分なんて本当にちっぽけで。郁さんは地上勤務になっても同じフィールドで努力し続けていたから」
「………ん」
「だから、私ももう一度夢に向かって頑張ろうと思います」
「ん」
「郁さんの顔見たら、今でも凄く嬉しいんですけど……。でも、ずるずると夢を後回しにしてしまうから」
「……ん」
「郁さんは私の顔なんてもう見たくないですもんね」
「………」
「だから、見えないところに行くことにしました」
「……そうか」
「夢は何歳になっても描ける世界だと先輩に教わりました。だから、郁さんも諦めないで下さい。今は無理でも、いつか叶う日がきっと来ますから」

彼女は頬を伝う涙を拭いながら立ち上がった。

「最後にぎゅうしてもいいですか?」
「……おいで」
「っ……」

俺の腕の中の彼女から、俺の好きな香りがした。

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