サイコな本部長の偏愛事情(加筆修正中)
彼好みの珈琲を淹れる。
厳選されたオーガニックの豆はコクがあるけれど、酸味が少ない。
その珈琲に彼のお気に入りの角砂糖を一個だけ入れ、ティースプーンで掻き混ぜる。
白く細い湯気が揺らめき、芳醇な香りが漂う。
いつもみたいにネクタイを緩めボタンを一つ外し、足を組んでソファーに座る彼。
そんな彼の前に珈琲を置く。
自分用に淹れたミルク入りの珈琲をテーブルに置くと、彼の視線はゆっくりと私に向けられた。
まるで、私からの言葉を待っているかのように。
「俺に文句があるなら遠慮なく言え。今日なら幾らでも聞いてやる」
「………え?」
「違うのか?」
「………違います」
「じゃあ、何だ。俺はてっきり、勝手に店に連れて行ったから怒ってるとばかり……」
「……あぁ、それはちょっと思いましたけど、怒ってはいません。戸惑っただけです」
「じゃあ、言いたそうにしてるのは、……何だ」
私は珈琲を一口飲んで彼の方に向き直した。
「私が『フィアンセ』だと言ったのは迷惑でしたか?」
「………迷惑というか、焦ったのは確かだな。周りにスタッフもいたし」
「じゃあ、社内だけでなく、空港中に知れ渡ってしまって、後悔してますか?」
「………うーん、半分後悔、半分有難い感じか?」
「半分……」
「否定しなかったことへの後悔ではなくて、………手順を踏んでからそうすべきだったという後悔か?」
「………ん?」
「要するに、結果は同じであれ、違うアプローチの仕方があったはずだという後悔だ」
「………」
頭のいい人の言葉は難しい。
何だかそれって、相手が私で良かったと言われてるように聞こえるんだけど?