【受賞】隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
 一呼吸おいてから、アルベティーナは扉に手を伸ばす。
 ギギッと軋んだ音を立てて、扉を開けた。
「なんだ。逃げなかったのか」
 いつもの執務席に座っていたルドルフは、頬杖をつきながらアルベティーナを見つめていた。
「団長こそ、逃げなかったんですね」
「お前にあそこまで言われてしまっては、な。逃げたら恥だろう? 鍵を閉めてこっちへこい」
 ルドルフはアルベティーナの目をしっかりと見つめながら、右手の人差し指を上に向け、クイクイと二度曲げた。つまりアルベティーナを誘っているのだ。
 負けてはいられないと思っているアルベティーナは、後ろ手で鍵を閉めると、ルドルフの方へゆっくりと歩み寄る。カサカサと絨毯を踏みしめる音が、異様に大きく聞こえた。
 アルベティーナが執務席を挟んで向かい側に立つと、ルドルフはそこではなく自分の隣へ来いと言う。執務席を大きくまわって、彼の隣に立つ。
「汗を流してきたのか?」
 恐らくアルベティーナが来るのが遅かったため、ルドルフはそう思ったのだろう。
「ち、違います。他の方が帰るのを待っていました。誰もいなくなってから、あそこを出てきたので」
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