【受賞】隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
 この庭園はどこか懐かしい。あの回し蹴り事件が起こったから懐かしいのではなく、もっと前にここに訪れたことがある。そんな気分にさえなる。
 風が吹き付ければ、花もさわわと揺れる。庭園の真ん中にある白い噴水からはチロチロと水が流れ、庭園の隅々に水を行き渡らせている。
 地面にお尻を落とさないようにして、アルベティーナは膝を抱えた。背中に降り注ぐ陽光が暖かい。
 花の甘い香りが、鼻腔をくすぐっていく。
(私、本当にこのままでいいのだろうか……)
 頭に浮かんでは消えていく家族の姿。シーグルードはエルッキやセヴェリに会うことを頑なに拒んでいる。
(だけど、王妃様はみんなに会わせてくださるとおっしゃったし)
 なぜこんなにも不安になるのか、アルベティーナにはわからなかった。
 騎士団を辞めなければならないことが原因なのか。
 それともシーグルードの婚約者になってしまったことが原因なのか。
 心の奥にあるもやもやとした気持ちの正体がわからない。
 アルベティーナはすっと立ち上がったが、長く座り込んでしまっていたため足が痛かった。
 辺りをぐるりと見回すと、他の人の姿は見えない。シーグルードは少し離れた場所にいると言っていたはずだが。
 アルベティーナはゆっくりと庭園を歩き始めた。庭師はこの時間、不在なのだろうか。
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