【受賞】隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
 音楽が途切れたところで、シーグルードがアルベティーナの腕を引き、そこから去った。途中、給仕から飲み物を二つ受け取った彼は、そのままアルベティーナをバルコニーへと連れ出した。他の誰も、そんな二人に声をかけようとは思わないらしい。そう思えないような特別な空気がそこには流れていた。
「喉が渇いたでしょう?」
 アルベティーナはグラスを受け取りながらも、彼から離れるタイミングがわからなかった。
(二人きりでこのような場所にまで来てしまったけれど、大丈夫なのかしら……)
 振りむけば、バルコニーの入り口付近にエルッキの姿が見えたような気がした。
(エルッキお兄さまがいらっしゃるから、変な噂が立つこともなさそうね)
 先ほどまでの華やかな場所とは違い、暗闇の世界。それでも、大広間から漏れてくる光がこの闇の入り口を照らしているし、そこから流れてくる華やかな音楽が、この場を完全なる孤独にしようとはしていない。
 さらに目が慣れてくれば空に輝く星たちが見え、その柔らかくて小さな光ですら、この場を照らし出そうとしていることに気付く。
「疲れましたか?」
 先ほどから彼の口から紡ぎ出される言葉は、アルベティーナを気遣うものばかり。それがくすぐったくて、そしてどこか嬉しくて、彼女はつい口元を緩めてしまった。
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