隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
「どうかしたか?」
 もしかしたら、彼にはアルベティーナが怖気着いたように見えたのかもしれない。ルドルフが目を細め、じっと見つめてくる。
「いえ。何でもありません」
「そうか。悪いが衣装はこちらで準備させてもらう。お前の好みではないかもしれないが、潜入調査の一つだと思って、そこは諦めて欲しい」
 ドレスの好みと言われても、あのデビュタント以降、数回のお茶会にしか参加していないアルベティーナにとって、よくわからない件でもある。
「それから、護衛用の短剣は忍ばせておけ。あのときのようにな」
 あのときとは、二年前のあのことを指しているのだろう。アルベティーナと言えば、あの事件とセットなのかもしれない。あの一件で騎士団側には名を知られたに違いない。それについては不満などあるはずがない。例え『強暴姫』と呼ばれようが、一人の令嬢が救われたのであればそれで充分だし、このように騎士団へ入団できるきっかけともなったのだから。
「はい」
 彼女が返事をするのを見届けたルドルフは、またふっと口元を歪めた。それに気付いたアルベティーナは視線を逸らす。
(団長のこの笑顔、卑怯なのよ……)
 トクトクと力強く脈打つ心臓が、口から飛び出しそうになっていた。
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