隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
第三章
 アルベティーナの今日の通常の任務は休みである。それはもちろん、例の特別任務の日だからだ。
 姿見の前に立ち、ふぅとアルベティーナは小さく息を吐いた。今日は髪の色が赤茶色である必要は無かった。
 幼い頃から不思議だった。どうして自分は両親と異なる髪の色をしているのかと。あまりにもアルベティーナが気にしていたからだろう。アンヌッカは染め粉で髪の色を染めるようにと提案してきた。それから外に出るときには、この銀白色の髪を母親と同じ赤茶色に染めていた。
 だからこの銀白色のままの髪色で外に出るときがくるとは、思ってもいなかった。髪を手早くまとめ、(つば)の大きな帽子の中に入れ込む。
 これから王城にある駐屯所、つまり騎士団の建物へと向かうのだが、裏口から入って真っすぐ執務室へ来るようにとルドルフからは言われていた。どうやらそこで特別任務へ向けての準備をするようだ。そのため、アルベティーナはコルセットのいらないラベンダー色のハイウェストのドレスを身に着けていた。どこからどう見ても女性騎士には見えないはずだ。
「セヴェリお兄さま、お待たせしました」
 セヴェリも今日は昼の仕事がなかった。自室にいる兄に扉越しから声をかければ、中から慌てた様子の物音が聞こえてきて、勢いよく扉が開いた。もう少しアルベティーナの準備に時間がかかると思って、くつろいでいたのだろうか。
「ああ、ティーナ。準備はできたのか? 忘れ物はないか? 大丈夫か?」
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