俺様男子はお気に入りを離さない
ふいにポンと頭に手が乗せられる。
ガシガシと、髪型を崩さない程度に撫でられ、何事かと御堂くんを見る。

目が合うと御堂くんはくしゃっと笑った。

「千花子って本当、可愛いやつ」

瞬間、胸の奥がきゅーんとなってどうしようもなくなった。
この気持ちを表す言葉って何だっけ、と考えてすぐに理解する。

この気持ちは『好き』だ――。

ううん、御堂くんのことは前から好きだった。
だけどそれをなおさら実感したというのか、再認識したとでもいうのか。それくらいの衝撃が走ったのだ。

「あ、ありがと――」

「なあ、千花子も俺のこと名前で呼べよ」

「へっ?!」

「俺も名前で呼んで欲しい」

「あ……う……」

「何だよ、自分は要求しておいて、まさかできないとでも?」

「あ、いや……その……」

た、確かにっ。
確かに私は「名前で呼んで欲しい」って言った。だけどまさか私も御堂くんのことを名前で呼ぶなんて。
自分の名前を呼ばれるよりも恥ずかしいかもしれない。

どうしよう……どうしよう……。

空気が重い。
喉が詰まる。

ええい、頑張れ私。

「…………薫くん」

ボソリと小さな声になってしまったけれど勇気を持って口にした。

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