【大賞受賞】沈黙の護衛騎士と盲目の聖女
レオナルドは拳をギュッと握りしめながら歯を食いしばる。セイレーナ国王の言葉に従うことが王子としての責務だとわかっている。
——もう、ユリアナのことは諦めなければ……。
王族である自分が妻に望んでも叶うものではない。——それは痛いほどわかっている。
項垂れるレオナルドの元に、アーメント侯爵が近寄ってくる。射抜くようにレオナルドを見つめながら、侯爵は静かに問いかけた。
「殿下は以前、娘の杖になりたいと言われていたようですが、その気持ちは今もお持ちですか?」
「もちろん、私はユリアナの杖となり、彼女を守りたい。そのために身体も鍛えてきた」
足の悪い彼女を支え、目の見えないユリアナの杖となりたい。希代の聖女である彼女を諦めない神殿の脅威から守るために、身体を虐め抜いて鍛え上げて来た。この二年で、体つきは大分変っている。
レオナルドは目に力を入れると、ゆっくりと侯爵を見返した。
「では、私からも条件を課したいと思います。正体を明かさず、声を出さないでください。ユリアナのことを思えば、このまま静かに暮らして欲しい。レオナルド殿下とわかってしまえば、あの娘も落ち着かないでしょう。声を出さない生活をして、少しは娘の苦労を体験してください。それを守っていただけるのでしたら、十日間。……どうか娘の杖となってください」
「侯爵! ……許してくれるのか?」
「十日間だけです。それだけあれば、娘の状況を知り、互いに思い残すこともないでしょう」
そうして来ることが許された十日間、声の代わりとして鈴だけが頼りだったが、意外とお喋りな彼女とは意思疎通ができた。
彼女を諦めるため、十日間と限定された中での逢瀬だった。
——ユリアナ、君のことを愛している。だから……。
レオナルドは柔らかい髪を手で梳きながら、いつまでも彼女の寝顔を眺めていた。