再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~



後ろから抱き寄せた手にそっと重ねただけで、跳ねたのは律の手の方だった。


「……ごめん。先、シャワー浴びてきていい? 変な意味じゃなくて、なんか……このままお前に触れるのは、悪い気がする」


自分を汚れてるみたいに言うのが嫌で、首を振ったのに。


「今更? だよな。でも、なんか今日はね。お、っと……。なに、急に。まさか、一緒に入りた……」


(なんで、やめるの)


振り向いて、ぴたっとくっついたのに。
律にしては、定番のからかい方なのに。


「……すぐ戻る。あ、勝手に漁って悪いけど、一式持ってきたから」


そんな、泣きそうにも見えるような笑顔を見たら、こんなことで「行かないで」って言いたくなる。
そんな私に気づいてるはずだけど、やっぱり、それ以上は触れてくれなかった。
諦めて手を離すと、指された紙袋を見る。
律の部屋に置きっぱなしだった、下着とか必要そうなものが丁寧に入れられていた。

この為に遅れたんだ。
こういう恥ずかしさは昔より薄れているけど、気まずさはある。
極力感じさせないように、丁寧だけど見えないようにサッと入れてくれたんだろう。
口では軽く言ったりもするけど、私よりも律の方がよっぽど気遣いできるし細やかだ。


(……私こそ、清めた方がいいかも)


――律は、悪者ぶるのが得意すぎるだけ。





・・・




「あ」

「俺が出るからいいよ。……じゃなくて、お前は外出るの禁止。その風呂上がりのエロい感じで、部屋の外出る気? 」


念の為に言うなら、ルームサービスに反応しただけだ。


「え……ろどころか、この格好に色気とかないんですけど! っていうか、そんなこと言い出したら夜何もできないでしょ……」


そもそも、ルームサービスでも宅配でも、持ってきてくれた人はそんなもの見てないという大前提があるんだし。


「お前は、何もしなくていいの。しちゃいけないの。危ないでしょ。ほーら、ドア開けるから奥行ってな」


(だから、誰も見てないってば……)


もう何度も言った台詞が、最早声にすらなってくれない。
睨みながらも大人しく隠れると、満足そうに眉を上げて料理を受け取ってくれた。


「はい。どうぞ、お姫様。気を遣わせてごめんな。外食誘ったの、俺なのに」

「おひ……。……それは、全然。せっかくだし、二人きりなのもいいよ」


律は笑うけど。
高そうな料理、ワイン。
こういうところのルームサービスは、それ自体が高級な雰囲気でムード満点だ。
それに、何より。


(今の律は、外だと余計疲れちゃいそう)



お姫様よりも、彼女でいたい。
大体、私のことで悩ませてるのに。
本当は、もっと全面にサプライズに対する嬉しさとか感動とかを出せたらいいんだけど。
言い方も反応も可愛くなさすぎて、自分に失望してしまう。


「……すず。小鈴ちゃんって」


慣れないちゃん付けにハッとして顔を上げると、困り顔の律が更に苦笑していた。


「お前さ。なんでそう、可愛いことするの」

「……は? 」


ほら。
可愛いに対して「は」しか出てこないって、可愛げなさすぎるのに何言ってるんだろう。


「……聞いてたんだろ。吉井くんとのあれ。今日ずーっと、そんな泣きそうな心配そうな顔してる。気づかないふりしてたけど、ごめん。もう無理だわ」

「……ごめん……」


(……そっか。バレバレだよね)


気を遣うどころか、気を遣わせてばかりだ。
優しさで言わないでくれたのに、それも限界な態度取ってたみたい。最悪――……。


「可愛いくて、もう無理。嫌な思いしたの、お前の方なのにな。一生懸命俺のこと考えてくれてるの、本当に堪らない……」


考えるのだけは考えたけど、ちっとも上手く出来てはいないのに。
そんなことでそんなに愛しそうに言われると、本当に泣きそうになるのも自己嫌悪してしまう。


「ちゃんと伝わってるから。俺が幸せなのも、お前に伝えたかっただけ。……ありがとな」


盗み聞きして、お礼を言われてしまった。
律の甘さが嬉しくて、何もできない自分にむしゃくしゃしてしがみつく。

笑って、頭をポンポンしてる、律の呼吸がふと聞こえた。
さっきよりも、呼吸しやすくなってくれたらいいな――そんなこと、私も本気で思ってる。





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