再会した敏腕救命医に娘ごと愛し守られています
いよいよ明日から保育園。
でも紗良は早く動きたくて仕方なさそう。
日曜日で仕事も休み。
夏の日差しもようやく落ち着いてきているがまだまだ暑いので、水遊びのできる公園に連れて行くことにした。
私はショートパンツにTシャツ、サンダルを履いた。紗良も同じ格好。帰りに紗良が着替えできるようバッグにはタオルや洋服、水筒やお菓子も詰め込むと玄関を出た。
紗良に帽子を被せ、歩き始めてすぐに正面から歩いてきた人に目が釘付けになった。

「優里! 紗良ちゃん」

手を振りながら近づいてきた彼に驚き、体が固まった。

「先生?」

紗良は斗真の顔を覚えていたのか指を指していた。

「どこにいくの?」

しゃがみこむと紗良の目線に合わせて話しかけていた。

「うんとねぇ。おみずであそぶところ」

「いいね。暑いし一緒に連れていってくれない?」

「いーよー」

「ちょっと、紗良!」

私は慌てて紗良の手を引いた。
一緒に出かけるなんて無理。
本当に何を考えているの?

「帰って。この前も話したけど、私たちはもう終わってるの。斗真は斗真の人生を歩いて」

それだけ言い切ると私は紗良の手を引き歩き始めた。
斗真はあの時にちゃんと別れ話をせずに離れたから、再会してちょっと懐かしくなっただけだろう。シングルマザーになった私にちょっかい出さなくたっていいのに。

「ママ?」

顔を見上げ、心配そうな顔で私を見ている紗良に笑顔を向けた。
歩き出した私の腕を斗真が握りしめてきた。
久しぶりの彼の手に胸が苦しくなった。

「優里。俺はやっと会えた優里とやっぱりもっと話したい。俺が悪かったのは分かってる。あの頃の俺は必死でいっぱいいっぱいだった」

「もういい」

「聞いてくれ。優里がいなくなったと気がついて、喪失感で何も手につかなくなった。どれだけ優里が心の支えになってくれていたのか分かったよ。でもこんな俺じゃ優里に叱られると思って、いつか会えた時に胸を張れるように頑張ってきた」

「でも、私が離れた理由がわからないんでしょ?」

私は冷たい声で彼を拒絶した。
本当は彼に掴まれたままの腕が熱い。
懐かしくて胸の奥がぎゅっと締め付けられる。でもこのまま流されてもお互いに良くない。

「斗真。この前見た斗真はもう立派な医者になってたよ。頑張ったね。これからもたくさんの人を助けられる優しい先生でいてね」

私は胸の内を隠す様にそっと彼の手を私の腕から離した。

「優里、だめだ。終りじゃわない。終わらせたくない」

私は首を振った。

「もう遅いの。私は別の道を歩いてる。斗真の道とはもう重ならない」

小さく笑うともう一度紗良を促し、斗真を置いて歩き始めた。
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