悪役令嬢ふたりの、のほほん(?)サバイバル暮らし
「アルベルティーヌ……っ」

 ロバートは、一目散にアルベルティーヌのもとへ走り寄ってきた。そして、シミ一つない白いズボンが泥で汚れるのも構わず、手入れのされていない庭のレンガ敷きの舗道に膝をつけ、恭しくアルベルティーヌの手を取る。
 アルベルティーヌとパメラの頬が同時に引きつった。

――嫌だわ、白地の布についた泥汚れは、洗ってもなかなか落ちないのに……。洗う人、可哀想!

 二人の心にほぼ同時に浮かんだのは、ロバートの泥汚れが付いたズボンを洗うことになる召使いへの憐みであった。貧乏性が板についている。

 彼女たちの心中はいざ知らず、ロバートは熱っぽい視線でアルベルティーヌを見上げた。

「ああ、アルベルティーヌ! 君を血眼になって探したよ。この僕自ら、平民のような恰好をして、君の情報を集めたんだ。ハルベリー伯ったら、今回の婚約破棄の件でカンカンになってしまって、君の居場所すら教えてくれないんだもの」
「……ああ、あの怪しい集団とは殿下たちのことだったのですね。村で噂になっていたようですが」
「むっ、僕の変装は完璧だったのに、どうしてバレたんだろう? まあとにかく、ああっ、アルベルティーヌ! 会いたかった!」
「……ハルベリー伯爵嬢とお呼びくださいませ、殿下。わたくし達はもう婚約者同士ではないのです。貴方はミニュエット嬢と婚約したのですから、そのように気軽にファーストネームで呼ぶのはマナー違反ですわ」

 きっぱりとつれない返事をするアルベルティーヌ。ロバートは驚いた顔をした。

「どうしてそんなに冷たい返事をするんだい? 僕は、こうしてアルベルティーヌを助けに来てあげたのに……」
「助けに?」
「ああ、そうだとも! 君を失って初めて、僕はどれほど君の大事だったかに気づいたんだ」

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