囚われのシンデレラーafter storyー

"ヨシタカは、遠距離恋愛だからいいだろう。会えない代わりだ"

しどろもどろになる私に被せるように、そこにいた別の男性が答えていた。

"それにしても、そんなに飾りたくなるほど可愛いいんだな"
"……ああ、可愛い。だから選べない"

いつもは冷厳さでガードされているその顔が、ほんのわずかに緩む。
そんな表情を見せられれば、自分のことを言われている訳でもないのに、勝手に鼓動が激しくなる。

"ヨシタカをそんなに腑抜けにする可愛い恋人の写真は、スマホに入っていないのか? 見せてくれてもいいだろう"

その言葉に、ドキリとした。

アズサという女性――。

見たいような見たくないような。振り子のように忙しなく揺れ動く。

"それはできない"
"どうしてだ? 減るもんじゃない"
"減るような気がする。スマホに収めている写真はどれも、俺だけに見せる素の顔ばかりだから、他の人には見せられない。俺だけの特別なものだ"

そこにはいないのに、まるでそこにいるかのように愛おしげに言う。
痛みと嫉妬が入り混じる。

 でも、こんなことで傷付いてばかりもいられない。まだ、始まったばかりだ。最高の笑顔を作る。

"そうですよね。大切なものほど隠しておきたいものです。その方が女性としても嬉しいと思います"

笑顔の裏で、痛みは増すばかりだ。

"――ヨシタカは、日本人らしくないな。ストレートに恋人に愛情を示す"
"あなたたちほどではない。フランス(ここ)は愛の国だからな。パリジャンは呼吸をするように愛の言葉を口にする"
"まあ……そうだな。ハハハ!"

終始和やかな会話に、つい目を伏せてしまった。

"アリサは美しいから、パリジャンには気を付けろよ? 情熱的で手が早い。うちの部内にも、もう君を狙っている男がいるかもしれない"

セクションマネージャーがそう口にした。

"私は、今は仕事のことで頭が一杯ですから。恋愛のことなんて考えられませんよ"
"おお、アリサはやっぱり真面目だな。なあ、ヨシタカ"

西園寺さんの目がこちらに向けられる。その目のあまりの冷たさに、自分の表情が硬まるのが分かる。

"せっかく派遣されて来た有能な人材を失いたくはないからな。オフィスではぜひ、その真面目さを貫いてほしい"

その冷たい眼差しが、ひんやりとした微笑みを作って。

"でも、仕事を離れたら、情熱的なパリジャンと恋愛を楽しむのも良いのでは? 君に似合いそうだ"

ゾッとするほどに温度の低い笑。
この表情から完全に笑顔なんて消えてしまう。

なのに。

その美しささえ感じる冷たい微笑みが、私を捕らえて離さない。

< 100 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop