囚われのシンデレラーafter storyー
”な……何を、おっしゃっているのか、分かりません――”
そう口にするのがやっとだった。ようやく出した声さえ震えている。
”君はそれでも部下だからな。管理職としてスタッフ皆が仕事を円滑にできるようにする責任もある。君が恥をかかずに済むように、これまで、何度も牽制して来たつもりだ。それでも伝わらないならはっきり言うしかない”
捲し立てるようなフランス語の後に、それが日本語に変わった。
「俺の言葉を君が都合のいいように誤った解釈をしても困る。ここからは、日本語で言おう」
突然の日本語に、ただ呆然とする。
「自分が、いつもどんな目で俺を見ているのか分かっているのか? 物欲しそうな、常に隙を狙っていそうなそんな目だ。それが迷惑だと言っている」
西園寺さんの言葉に、頭に血が上って。
「わ、私、そんなつもりありません……っ! あまりに失礼です!」
そう叫んでいた。
「俺の勘違いか?」
感情的になる私に構うこともなく淡々として、その口調はどこか私を嘲っていた。
「私は、ただ、あなたの元で仕事をしていただけで、そんな風に言われる覚えはありません――」
「そうか。それならいい。忘れてくれ」
そう言うと、そのまま私の横を通り過ぎて行った。
それだけ失礼なことを言っておいて、『忘れてくれ』の一言で済ます。
これだけ、侮辱しておいて――。
「酷いです……!」
立ち去る背中に、声を放っていた。
涙が溢れる。この涙はなんだろう。
悔しさ?
それとも――。
「ぶ、部下に、あなたのただの思い込みを責めるなんて、酷いです!」
嘲る目でも、蔑む目でも、こちらを向いてほしいという想い――?
その背中がこちらへと振り向く。
涙が頬を流れているであろう私の顔を見ても、その表情を変えることはなかった。
「……いつ、俺がいい人間だと言った? 酷いと思われようが俺にはどうだっていい。むしろ、そう思われることで面倒なことがなくなるならその方が好都合だ」
どうして、そんなこと言えるの――?
「他の女の評価なんてどうだっていいんだよ。俺がそれを気にするのは、この世でただ1人だ」
歓迎会の場で、西園寺さんが和やかに話しながらも、どこか切実に呟いた。
――彼女に嫌われてしまっては元も子もない。
どうして。
男はいつだって、少しでも多くの女に見られていたい。
誰かがいながら、その人がいないところでは、自分を良く見せようとする。
どうしてだろう。涙が止まらない。
既に遠ざかって行くその背中が滲んで輪郭なんてほとんどなくて。
それと同じように心の中はぐちゃぐちゃだ。
今まで知ることのなかった見たこともない自分が現れる。
それが自分の意思なのかなんなのか、もはや分からない。
震える足を一歩踏み出していた。