囚われのシンデレラーafter storyー


「――お疲れ様。疲れたでしょ?」

松澤さんが帰って行った後、無意識のうちに大きく息を吐いていた。

「はい。正直、疲れました。でも、あの辛辣さは理不尽なものではないと分かりますから。大丈夫です」
「あら。意外と強いのね」
「はい。意外に」

そう答えると、植原さんが笑った。
そして、何故かじっくりと私の顔を見る。

「――松澤さんとあなたの化学反応。全然タイプが違うからこそ、物凄く面白いものになるかも。演奏も、それ以外も……」

腕を組んで、さらに覗き込んで来る。

「―――」
「な、なんですか……?」
「いや、なんでもない。じゃあ、行きましょか!」

ヘンな人だ。


 それからは、本当に過密日程で。複数の雑誌や新聞社の取材を受けて、宣伝用の写真を撮って。

 それから、初めてテレビに出た。それも生放送で、心臓が機能を放棄するのではないかというくらいに緊張した。

 テレビの向こうでしか見たことのない有名人が自分に話しかけている。
 自分が声を発していても、どこか非現実的だと感じながらその時間を過ごしていた。

 この一週間、家には寝に帰るくらいだった。


 そんな目まぐるしいスケジュールもようやく終わり、翌日帰国するという日になった。

「――じゃあ、次は10月。CD発売イベントのミニコンサートね」
「はい。よろしくお願いします」

次回のスケジュールについて植原さんと事務所で確認をする。

「それが終われば、いよいよオケとのリハが始まる。しっかりモスクワでも腕を磨いておいてよ?」
「もちろんです」

植原さんと別れて事務所を出た。

 仕事最終日になって、初めて明るいうちに自由になることができた。

 9月の東京は、厳しい残暑が続いていた。すぐに背中がじっとりと汗ばみ始める。

 鞄からスマホを出し、ディスプレイを確認する。

「え……っ!」

そこに表示されたものにあまりに驚いて、思わず声を上げた。

(――東京に来てしまった。何時でもいい。仕事が終わったら連絡してくれ)

佳孝さんからのメッセージだった。

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